自己破産をした場合、自己破産の手続中には就業することを制限される仕事があり、制限のことを、職業制限といいます。
そもそも、仕事を選ぶということは、人生設計やキャリアプランを形成するうえで欠かせない重要な選択です。
一方、自己破産をするに際しては、職業制限がかかる職業があります。
そのため、借金問題を効率的な解決に導くためにも、自己破産が引き起こす可能性のある職業制限を理解し、その上で適切な対策を講じることが重要となります。
この記事では、自己破産が職業に及ぼす影響、職業制限がかかる仕事の一覧、そして、これらの制限を回避するための方法に焦点を当てていきます。
自己破産で起こる職業制限について
職業制限とはどんなものか?
自己破産をすると、復権を得るまでの手続期間中に特定の仕事に就くことが規制される場合があります。
この自己破産に関連する仕事の制限には、いくつかの種類があります。
具体的には、以下のようなものがあります。
- 「自己破産の手続の期間中は資格の登録が取り消されるもの」
- 「自己破産をすることが、解雇や罷免の理由となるもの」
- 「法人として営業することの許可や認可が下りなくなる」
これらの職業制限がどの職種に適用されるかは、各職業を定めた法律に詳細に書かれています。
例えば、一般の方になじみが深い職業で言うと、「会社の役員」「警備員」「弁護士や司法書士、税理士や宅建士などの士業」「パチンコ屋や飲食店の店長」が挙げられます。
詳しくは、下記「職業制限一覧」を確認してください。
ちなみにですがこのような仕事に就いていない人には、職業制限の影響はありません。
また、職業制限がかかる仕事というのは、資格試験などを通らないと就けない仕事が中心ですし、ちょっと特殊な仕事も多いように思えます。
したがって、一般の方であれば、あまり心配しなくてもいいかもしれません。
自己破産の職業制限がされる期間
では、これらの職業制限は一生ついて回るようなものなのでしょうか?
そうだとしたら、自己破産をするのはおっくうになってしまうかもしれません。
しかし、その心配は必要がありません、職業制限の影響が自己破産の手続中だけで、手続が終わった後は問題ありません。
そこで、具体的な条文を挙げた方がわかりやすいので、警備員法第3条第1号を見てみましょう。
(警備業の要件)第三条 次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。 一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者 |
言い換えると、「破産手続開始の決定を受けて」は、自分の破産手続きを始めたことを指し、「復権を得ない」とは、手続きがまだ終了していないことを意味します。
要するに、「自己破産の手続中は、警備員にはなれません」ということです。
逆に言えば、手続きが終わっていない間は、何も問題なく、手続きが完了した後に再び警備員になることも可能です。
自己破産が終わるまでの期間はどのくらい?
次に「自己破産の手続きにはどれくらいの期間がかかるか」ですが、これは、自己破産手続のうち、「同時廃止」と「管財事件」のどちらを進めることになるかによって変わります。
まず、「管財事件」は一定以上の価値のある財産を持っていたり、借金の理由や経緯に問題がある場合の手続きで、「同時廃止」は財産がないことや借金に問題がない場合に行われる手続きです。
他方、同時廃止の場合、財産がないため手続きが短く、通常2~3か月で終了しますが、管財事件の場合は財産の売却や調査に時間がかかるため、半年から1年以上かかることがあります。
簡潔に言うと、「自己破産をすると、手続きが短い場合は2~3か月、長い場合は1年以上、その期間中は職業に制限がかかる」と言えます。
自己破産による職業制限を回避するための方法は?
ただ、「今の仕事を辞めたくない」「資格の制限を受けたくない」といった要望があることも多いでしょう。
そこで、ここからは、職業制限を回避するための対策方法を紹介していきます。
【方法その1】会社に相談する
自己破産によって資格制限がある場合、最も心配なのは「仕事を失うことではないか」という不安です。
このように、仕事を失うリスクに対する対処方法としては、事前に会社に自己破産のことを相談しておくことが挙げられます。
言いたくない気持ちは分かりますが……
現実的には、自己破産を会社に自ら伝える必要はなく、「借金があり、返済が難しい状況になった」と公に語りたいと思う人も少ないでしょう。
自己破産をするということを自ら申告をするということは、「借金がある」ということを会社や同僚、上司に知られてしまうということを意味するわけですから、決して自ら申告したいとは思わないのは、人としては当然の感情だと思いますし、理解もできます。
しかし、仕事に必要な資格が制限されていることを黙って無資格で仕事を続けていたら、その方がよっぽど問題が大きいと言わざるを得ません。
なぜなら、無資格で仕事を行っていることが発覚した場合、資格を有しないで業務を行った者には、法的な制裁などが加わえられるリスクがあるほか、会社にも多大な損害をある可能性は十分に考えられます。
もしかすると、「職業制限があるとバレなかったらいいだろう」と考える方もおられるかもしれませんが、そのような行為こそ、信用を失墜し、退職に追いやられるリスクを高める行為だと自覚しましょう。
そのため、会社に対して素直に状況を伝え、別の部署での業務や復権後の従来の仕事への復帰の相談をすることは、決して悪い方法ではないのです。
余白
また、自己破産手続において会社の協力が必要な場面もあります(例: 退職金規定)が、これも、円満な関係を築いておくことで、自己破産が良い方向に進む可能性も高まります。
そのことから、自分から会社に申告し、業務について相談に応じてもらうことは、悪い方法ではないと考えられます。
【方法その2】別の債務整理を選ぶ
次に、債務整理の方法を検討するという手段があります。
つまり、債務整理には「自己破産」以外にも、「個人再生」「任意整理」といった手続きがありますが、その中で、職業制限が課されるのは自己破産手続きだけであり、職業制限を避けたい場合は、他の債務整理手続きを選ぶことを考えるべきだということです。
ただし、自己破産手続きは、税金や養育費、交通違反の罰金などを除いて、他の借金が全て免除されるという非常に力強い手続きです。
一方で、個人再生や任意整理は、減額した借金を返済する方法であり、一定額の返済が必要となります。
そのため、自己破産とそれ以外の手続きの選択肢については、「自分の返済能力や資産状況」と「職業制限による収入減や離職などのリスク」を検討して、慎重に判断する必要があります。
【方法その3】職業制限の期間を我慢する
最後に、あまり対策方法になっていませんが、職業制限の期間を我慢するというのも一つの方法だと考えられます。
例えば、「同時廃止決定」がなされる場合は、2,3か月程度の短期間で自己破産手続きが完了することもありますし、管財事件の中でも、財産が少額の場合は、「少額管財事件」という管財事件を簡略化した手続きが存在します。
しかも、同時廃止事件や少額管財事件での自己破産の手続処理を行うケースは数多く、これらの自己破産手続きは、数か月~半年程度で終わることがかなり多いため、大半の事件の処理期間は、決して長くはないのです。
2,3ヶ月と思って、現在の状況を受け入れるというのも、方法の一つでしょう。
もっとも、この点に関しては、裁判所の判断が絡んでくる問題です。
言い換えると、裁判所が「この人は管財事件相当だ」と判断されてしまった場合、手続き期間が長期化し、長期に渡って職業制限を受けるリスクは確かにあります。
とはいえ、職業制限があることを理由に、債務整理を先延ばしにし続けて、借金の返済が出来ないという状況を長らく続けていくことにも、同じくらいのリスクが伴います。
したがって、自己破産手続きを行う際には必ず、「職業制限による失業や収入減少のリスク」と「借金問題を先延ばしにすることで生じる法的措置や強制執行を受けるリスク」を天秤にかけて判断をする必要があると言えるでしょう。
職業制限に迷ったら弁護士・司法書士に相談を
自己破産手続における職業制限とは
さて、ここまでは、職業制限について説明をしてきましたが、簡単にまとめますと、自己破産手続きを進めると、ある期間、特定の仕事や職業に就くことが難しくなることがあります。
これを「職業制限」と呼び、通常は自己破産手続きが進行中(おおよそ3ヶ月から、場合によっては1年以上)は、職業制限の対象となる一部の職業に従事することが難しくなります。
そのため、職業制限がかかる可能性がある場合には、事前に会社に相談する、他の債務整理手続きを検討する、または職業制限を受け入れるといっ方法で職業制限への対策をしておくことが、経済的基盤を破壊せずに手続きを進めるために重要になります。
職業制限に悩んだら弁護士・司法書士に相談を
一方で、職業制限に悩んだがために、債務整理そのものをしないと判断する方もおられるかもしれませんが、手続きを先延ばしにすることは、借金問題をより深刻化させるリスクがあることから、安直に選ぶべき手段ではありません。
そこで、自己破産に伴う職業制限で悩んだ場合、経験豊富な弁護士や司法書士に相談することが良い判断と言えます。
そもそも、ベストな債務整理の手続とは、あなたのニーズや要望をかなえたうえで、進められるものであるべきです。
それを判断するためにも、支払い能力や資産状況、借金の総額などの客観的な要因に加えて、各個人の希望や必要によっても変わってきます。
ですので、借金問題や職業制限に悩んだ場合は、早急に弁護士や司法書士に相談し、解決策を提案してもらうべきでしょう。
職業制限一覧
1.自然人の破産にもとづく破産者本人の資格制限
(1)破産開始決定を受けたことが、罷免事由、解任事由等となるもの
その1
- 日本銀行の役員(理事を除く)
- 地方公共団体情報システム機構の役員
- 地方公共団体金融機構の役員
- 沖縄振興開発金融公庫の役員
- 地方公営企業等金融機構の役員
- 地方公務員災害補償基金の役員
- 原子力規制委員会の委員長または委員
- 中央更生保護審査会の委員長または委員
- 公安審査委員会の委員長および委員
- 公正取引委員会の委員長および委員
- 公害等調整委員会の委員長または委員
- 再就職等監視委員会の委員長および委員
- 国家公務員倫理審査会の会長または委員
- 裁判所職員倫理審査会の会長、委員
- 中小企業再生支援協議会の委員
- 国会等移転審議会の委員
- 公害健康被害補償不服審査会の委員
- 労働保険審査会の委員
- 社会保険審査会の委員
- 調達価格等算定委員会の委員
- 国地方係争処理委員会の委員
- 個人型年金規約策定委員会の委員
- 原子力損害賠償支援機構の運営委員会の委員
- 日本ユネスコ国内委員会の委員
- 農水産業協同組合貯金保険機構の運営委員会の委員
- 預金保険機構の運営委員会の委員
- 司法修習生
- 船員等に関する調停員
(2)破産者で復権を得ていない者であることが、欠格事由となるもの
その1
- 弁護士
- 弁理士
- 公認会計士
- 税理士
- 司法書士
- 行政書士
- 土地家屋調査士
- 社会保険労務士
- 通関士
- 公証人
- 人事官
- 後見人
- 遺言執行者
- 銀行の取締役、執行役または監査役
- 共済事業を行う消費生活協同組合または消費生活協同組合連合会の役員
- 信用協同組合または信用協同組合連合会の役員
- 商工組合中央金庫取締役、執行役または監査役
- 農林中央金庫の役員
- 労働金庫または労働金庫連合会の役員、清算人
- 組合員の貯金または定期積金の受入れ、もしくは組合員の共済に関する事業を行う漁業協同組合の役員
- 組合員の貯金または定期積金の受入れ、もしくは組合員の共済に関する施設に係る事業を行う農業協同組合および農業協同組合連合会の役員
その2
- 保険会社の取締役、執行役または監査役
- 資金清算機関の取締役等
- 特定目的会社の取締役、監査役
- 投資法人の執行役員、設立企画人、監督委員
- 金融商品会員制法人、自主規制法人の役員
- 清算無尽会社の清算人
- 銀行等保有株式取得機構の役員
- 保険契約者保護機構の役員
- 特定非営利活動法人の役員
- 商工会議所の会員、役員
- 商工会、商工会連合会の役員
- 地方公営企業の管理者
- 更生保護法人の役員
- 国家公安委員会の委員
- 教育委員会の委員
- 紛争調整委員会の委員
- 地方競馬全国協会運営委員会の委員
- 日本中央競馬会経営委員会の委員
- 土地鑑定委員会の委員
その3
- 収用委員会の委員、予備委員
- 運輸安全委員会の委員長または委員
- 都道府県公害審査会の委員
- 土地利用審査会の委員
- 開発審査会の委員
- 建設工事紛争審査会の委員、特別委員
- 建築審査会の委員
- 認可協会の選任するあっせん委員
- 個人施行者が第一種市街地再開発事業を行う場合の審査委員
- 密集市街地整備法に定める審査委員
- マンション建設組合におかれる審査委員、個人施工者の選任する審査委員
- 固定資産評価員
- 海事補佐人
- 犯罪被害者等給付金申請補助員
- 地方自治区の区長
- 中央競馬の調教師、騎手の免許
- 不動産鑑定士の登録
- 宅地建物取引主任者の登録
- 中小企業診断士の登録
- 中央卸売市場におけるせり人の登録
- 商品先物取引業者のための外務員の登録
- 金融商品取引業者等のための外務員の登録
- 賃金業務取扱主任者の登録
- マンション管理業務主任者の登録
- 監査法人の特定社員の登録
- 風俗営業の営業所の管理者
- 動物取扱責任者
- 有料職業紹介事業における職業紹介責任者
- 派遣元責任者
- 警備員
- 交通事故相談員
- 陪審員
2.役員破産にもとづく法人等の資格制限等
(1)法人の資格制限等のみを定めるもの
- 信託業の免許
- 管理型信託業の登録
- 信託法第3条第3号に掲げる方法によって信託を行う者の登録
- 指定紛争解決機関の指定
- 会員商品取引所の設立許可
- 株式会社商品取引所の許可
- 商品取引所持株会社に係る認可
- 商品取引債務引受業(商品取引清算機関)の許可
- 委託者保護基金設立の認可
- 商品先物取引業の許可
- 商品先物取引協会設立の認可
- 外国証券業者の引受業務の一部の許可
- 外国証券業者の取引所取引業務の許可
- 信用格付業者の登録
- 金融商品取引業協会の設立認可
- 投資者保護基金の設立認可
- 金融商品市場の開設免許
- 金融商品取引所持株会社に係る認可
- 外国金融商品取引所の設置認可
- 金融商品債務引受業(金融商品取引清算機関)の免許
- 外国金融商品取引清算機関の免許
(2)法人および自然人の資格制限等を定めるもの
その1
- 警備業
- 探偵業
- 鉄道事業の許可
- 銀行等代理業の許可
- 通関業の許可
- 酒類の製造免許、販売免許
- 宅地建物取引業の免許
- 一般建設業の許可
- 一般廃棄物処理業の許可
- 一般廃棄物処理施設の許可
- 産業廃棄物処理業の許可
- 産業廃棄物処理施設の許可
- 解体業、粉砕業の許可
- 質屋営業の許可
- 古物商および古物市場主の許可
- 風俗営業の許可
- 有料職業紹介事業の許可
- 一般労働者派遣事業の許可
- 港湾労働者派遣事業の許可
- 船員派遣事業の許可
- 建設業務労働者就業機会確保事業の許可
- 二種病原体等の所持の許可
- 骨髄・末梢血幹細胞提供あっせん事業等の許可
- 認定情報提供機関の認定
- 認定経営革新等支援機関の認定
- 自動車運転代行業の認定
- 民間紛争解決手続業務の認証
- 指定確認検査機関の指定
- 指定空港機能施設事業者の指定
- 地方管理空港における空港機能施設事業者の指定
- 教科用図書発行者の指定
- 指定給水装置工事事業者の指定
- 国立公園等の利用調整区域への立入りの認定機関の指定
- 軽油販売の仮特約業者の指定
- 登録住宅性能評価機関の登録
- マンション管理業者の登録
- 構造設計一級建築士講習・設備設計一級建築士講習の講習機関の登録
- 建築事務所の登録
- 不動産鑑定業の登録
- 測量業者の登録
- サービス付き高齢者向け住宅事業の登録
- 左記(サービス付き高齢者向け住宅事業)登録事務等の指定機関の指定
- 金融商品取引業の登録
- 金融商品仲介業者の登録
- 商品先物取引仲介業者の登録
- 第一種特定商品市場類似施設開設の許可
- 賃金業の登録
- 特定保険募集人の登録
その2
- 信託契約代理業の登録
- 第一種フロン類回収業の登録
- 引取業者の登録
- 旅行業の登録
- ホテルの登録
- インターネット異性紹介事業者
- 製造たばこの特定販売業の登録
- 製造たばこの小売販売業の許可
- 塩製造業者の登録
- 第一種動物取扱業の登録
- 中央競馬の馬主の登録
- 特例施設占有者の指定
- 指定紛争解決機関の指定
- 証券金融会社の業の免許
- 取引情報蓄積業務の指定
- 前払式割賦販売業の許可
- 割賦購入あっせん業者の登録
- 指定信用情報機関の指定
- 前受業務保証金供託委託契約に係る受託機関の指定
- 不動産特定共同事業の許可
- 中央卸売市場における卸売業の許可
- 債権管理回収業の許可
- 損害保険料率算出団体の設立認可
- 船主相互保険組合の設立認可
- 指定流通機構の指定
- 手付金等保証事業を行う者(指定保証機関)の指定
- 宅地建物取引業保証協会の指定
- 振替業を営む者の指定
- 電子債権記録業者の指定
- 危機対応業務を行う指定金融機関の指定
その3
- 事業再編促進業務に関する指定金融機関の指定
- 特定事業促進業務に関する指定金融機関の指定
- 特定地方管理空港運営者の指定
- 港湾労働者雇用安定センターの指定
- 特定外貿埠頭の管理運営を行う者の指定
- 船員雇用促進等事業者の指定
- 競輪振興法人の指定
- 小型自動車競走振興法人の指定
- 第三者型発行者の登録
- 資金清算機関の免許
- 放置車両の確認事務の受託法人の登録
- 著作権等管理事業の登録
- 確定拠出年金運営管理業の登録
- 前払金保証事業の登録
- 特例旧特定目的会社の登録取消または業務停止
- 少額短期保険業者の登録
- 特定事業を実施する民間事業者
3.その他の資格制限等
- 国の行政機関等による官民競争入札等の参加者
- 普通地方公共団体の行う一般競争入札の参加者
- 一般競争契約の参加者
- 普通地方公共団体と外部監査契約を締結できる者
- 各種事業計画の認定
- 事業主団体の作成する実施計画の認定
- 各種支援決定の撤回
- 各種受託者の基準
- 企業型年金規約の承認
- 各種再商品化等の認定に係る再商品化実施者の基準
- 各種再資源化等の認定に係る再資源化等実施者の基準
- 船舶等の所有者等の責任制限手続開始申立ての却下