相続登記とは、亡くなった方が所有していた不動産の名義を相続人のものに変更する手続きのことです。
2024年4月28日から、相続登記は義務化されています。
また、相続登記を放置すると不動産の売却や担保提供ができなくなる可能性があります。
このような様々なリスクが生じうるため、相続登記は確実に行うべきです。
一方で、相続登記の手続きは複雑で専門的な知識が求められます。
そのため、自分で行うのは大変な作業となります。
そこで、本記事で
- 相続登記の重要性と放置するリスク
- 手続きを円滑に進めるためのポイント
について解説します。
相続登記の基本的な流れから、専門家に相談するメリットまで、実践的な情報をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
相続登記とは不動産の名義変更手続きです
相続登記とは、亡くなった方が所有していた不動産の名義を、相続人の名義に変更する手続きのことを指します。
そもそも不動産の所有者の情報は、法務局で管理されている登記簿に記録されています。
そのため、相続が発生した際には、不動産の相続人は相続を原因として所有権を得たという記録、つまり相続の登記の申請が必要になるのです。
例えば、亡くなった父親の不動産を長男が相続したとしましょう。
この時、長男は相続した不動産を父親の名義から自分の名義に変更しなければなりません。
相続登記をする義務がある
これまで、相続登記は義務ではありませんでした。
ですが、相続登記を義務化する改正法が成立し、2024年4月28日に施行されました。
改正法の施行後は、相続開始から3年以内に所有権を取得したことを知った上で相続登記を行う必要があり、期限内に相続登記が完了していない場合は過料の制裁を受けることになります。
また、罰則以外にも、登記を長期間放置することで様々なデメリットが生じます。
権利関係が複雑化し、相続登記が困難になる
まず、相続登記をせずに放置することで、権利関係が複雑になってしまうケースです。
例えば、所有者である父が亡くなり、その相続人が子3人だったとします。
もしも、相続登記をせずにその子が亡くなると、今度は孫が相続人となります。
さらにその子も死亡すると、ひ孫が相続をすることになります。
つまり、いとこやはとこの代まで話が広がっていく可能性があるということです。
いとこくらいまでは、顔が分かるかもしれません。
ただ、はとこ、またいとこになると会ったことのないという方も多いでしょう。
こうなると、相続人全員の合意を得て相続登記を行うことは事実上非常に困難になります。
遺産分割協議が難航するリスク
遺産分割協議とは、亡くなった方の遺産の分け方を相続人全員で話し合うことです。
時間が経過するほど、新たな相続が発生して相続関係者が増加し、人間関係が複雑化するため、遺産分割協議は難しくなると考えられます。
また、遺産分割協議は相続人全員で行い、協議書にも全員の捺印が必要です。
相続人が亡くなったり、親族が増えて関係性が希薄になると、全員が集まって協議を進めることが難しくなります。
このように、相続登記をせずに放置することで、遺産分割協議が難航するリスクが高まるのです。
不動産の売却や担保提供ができないリスク
また、不動産の売買や担保提供が出来なくなる可能性があることも問題です。
例えば、土地を売る際には、登記簿に記録されてる所有者と実際の所有者が一致している必要があります。
ですが、相続登記をしていないと、登記簿上の所有者は亡くなった方のままです。
ですので、相続を原因とする所有権移転登記をしないと手続きを進めることはできません。
将来の売却予定がないからと相続登記を放置すると、いざ売却しようとした時に、他の相続人が行方不明だったり、手続きに非協力的だったりして、売却が不可能になるリスクがあります。
不動産の差押えや共有持分の売却リスク
不動産の差押えや共有持分の売却リスクもあります。
特に、相続人の中に借金をしている人がいる場合は注意が必要です。
相続人の債権者は、相続人に代わって相続登記を申請(債権者代位による相続登記)し、借金をしている相続人の持分を差し押さえることが可能だからです。
また、その相続人自身も自分の土地の持ち分は、売買や担保提供を行うことができます。
そのため、相続登記を放置している間に、相続人以外の第三者が権利関係に入り込む可能性もあります。
こうなると、法律関係が複雑化するのは言うまでもありません。
必要書類の入手が困難になるリスク
相続登記の際は、関係者の戸籍謄本や住民票の除票等多数の公的書類が必要となります。
しかし、時間が経過すればするほど、必要書類の準備は困難になっていきます。
なぜなら、公的書類には保管期限が定められているためです。
例えば、死亡者の住民票の除票は5年間の保存期間と定められています。
ですので、この期限を過ぎると書類が廃棄される場合があります。
すぐに手続きを行えば円滑に取得できた書類も、着手が遅れることで余分な手間がかかったり、書類の取得ができずに手続きが進まないリスクもあります。
このような場合、書類取得等のお金と手間がかかるリスクがあります。
ですので、相続登記を完了していない場合は、早急に着手すべきです。
司法書士に依頼せず自分で相続登記はできる?
相続登記には、相続人の数や相続の仕方などによって様々なケースがます。
また、状況にに応じて手続きの難易度も異なります。
例えば、相続人が自分しかおらず、相続関係や権利関係等が簡単であれば、自分で相続登記を行うこともできなくはありません。
ただし、以下のようなケースは、非常に時間がかかる相続登記となります。
ですので、ご自身で行うのはおすすめできません。
相続人の関係が複雑な場合
まず、相続人の関係が複雑な場合です。
特に、亡くなった方に子供がおらず、両親も他界している場合、亡くなった方の兄弟やおい・めいが相続人となります。
このような場合、親や兄弟などの戸籍を、出生から死亡までさかのぼって取得する必要です。
結果として、莫大な量の戸籍や資料を集めることになります。
ただ、戸籍集めは、慣れているという方は決して多くはありません。
多くの方にとっては大変な作業になるでしょう。
さらに、おい・めいが相続人となっていると、ますます関係が複雑化します。
他にも、例えば、相続をした人が後で亡くなり、さらに相続が発生しているような場合(代襲相続や数次相続の場合)などは、誰が相続人なのかわかりづらいです。
このようなケースで法定相続人の判断を誤ると、間違った相続人間で行われた遺産分割協議は無効となりかねません。
また、申請した相続登記を取り下げて、遺産分割協議書を作り直し、再度相続登記をやり直す必要が生じることもあります。
相続関係が複雑な相続登記は、専門家に相談するのがよいでしょう。
法務局が遠方の場合
相続登記の申請は、不動産所在地を管轄する法務局に対して行う必要があります。
ですので、遠い土地の申請は、遠い法務局にしなければならないのです。
もちろん。
登記申請は郵送で可能です。
ただし、申請書や添付書類に誤りや不備があると訂正等が大変になります。
というのも、登記申請書の誤りの訂正は、原則として法務局の窓口に行き、登記官の指示に従って行う必要があります。
遠方の法務局まで行き、申請書を補正するのも大変です。
ですので、法務局が遠方となる場合は、専門家に依頼するのがよいでしょう。
登記完了を急ぐ場合
登記完了を急ぐ場合にも注意が必要です。
特に、相続登記完了後に不動産を売却する予定があるときです。
このようなときに自力で登記を行おうとし、申請書や添付書類の誤りにより相続登記の完了が遅れると、不動産売却の日程に悪影響を及ぼし、買主に迷惑をかけることにもつながりかねません。
そのため、相続登記を登記完了を急いでいる場合は、専門家に依頼するのがよいでしょう。
被相続人の住民票が発行されない場合
相続登記の添付書類として、被相続人の住民票(除票)が必要ですが、被相続人の死亡から5年が経過すると、住民票の除票が発行されなくなります。
このように、被相続人の住民票が発行されない場合は、上申書などの特別な添付書類が必要となるため、専門家に依頼するのがよいでしょう。
また、被相続人の住民票が発行される場合でも、住民票の住所と登記記録上の住所が一致しないことがあります。
その場合、過去の住民票や戸籍を遡って取得し、住所のつながりを証明する必要がありますが、それでもつながりが確認できないこともあります。
このような場合にも、上申書等が必要となるため、専門家に依頼するのがよいでしょう。
以上の「自分でやるのが大変なケースその1~5」に当てはまらない、通常の相続登記は、司法書士に依頼せずに自分で行うことも可能です。
法務局には登記手続きの相談受付窓口があり、相続登記の方法を聞くこともできます。
ただし、法務局でやり方を聞いても、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成は、手間がかかります。
時間を節約したい方、手間を省きたい方は、専門家に依頼することをおすすめします。
相続登記を行う手順
登記簿の状況確認のため「登記事項証明書」を取得
相続登記を行う際には、まず対象物件の登記簿の状況を確認します。
これは、遺産分割協議や登記申請書の作成時において物件の詳細情報が必要だからです。
また、思っていたよりも不動産の名義が別人のものである可能性もあります。
たとえば、父親が亡くなった後に相続登記をしようとした際に、登記がされておらず名義が亡くなった祖父のままであることがあり得ます。
物件の詳細情報を知るためには、「登記事項証明書」を取得する必要があります。
この証明書には、不動産の地番や所有者に関する情報が記載されています。
登記事項証明書は法務局で取得可能ですが、そのためには建物の「家屋番号」と土地の「地番」が必要です。
これらの番号は固定資産税納税通知書や権利証、登記簿謄本に記載されていますので、手元にない場合は法務局で検索することができます。
相続登記を行いたい土地の家屋番号と地番を調べ、法務局で登記事項証明書を取得しましょう。
被相続人と相続人の戸籍謄本等を収集
不動産の名義人が特定されたら、遺産の相続関係を正確に把握することが重要です。
特に、亡くなった名義人が遺言書を残していない場合、相続登記は法定相続人全員で手続きを行う必要があります。
相続関係を正確に把握するためには、以下の戸籍謄本等が必要です:
- 戸籍謄本
- 改製原戸籍
- 除籍謄本
- 附表
必要な情報が記載されている謄本を準備しますが、すべての書類が必要というわけではありません。
亡くなった方の死亡から出生までを遡るため、戸籍謄本だけでは情報が不足する場合、他の謄本も必要になることがあります。
これらの戸籍謄本等は市区町村役場で発行されます。
亡くなった方の本籍地の市区町村で、「出生から亡くなるまでの戸籍謄本」を請求してください。
また、結婚などにより本籍地が変更されている可能性があるため、以前の本籍地も調査し、必要に応じて役所に謄本の発行を申請する必要があります。
遠方の役所からの取得も可能ですが、取り寄せ手続きが必要です。
遺産分割協議書を作成
遺言がない場合、亡くなった方の遺産は相続人全員で話し合って分配を決定します。
この話し合いを遺産分割協議と呼び、協議内容をまとめたものが遺産分割協議書です。
ただし、相続人が1人だけの場合は遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議では、被相続人が所有していた不動産(土地や建物)の配分を決めます。
遺言がない場合、配分方法は相続人に委ねられます。
遺産分割協議書には、以下の内容が明確に記載され、相続人全員の実印捺印が必要です。
- 分割する不動産の詳細(地番、家屋番号など)
- 各相続人がどの不動産を相続するかの配分内容
- 遺産分割協議書の作成日と場所
- 相続人全員の氏名、住所、実印の捺印
その他書類を作成・収集
法務局での登記申請に必要な準備は以下の2つです:
- 登記事項証明書
- 不動産の地番や所有者に関する情報が記載された証明書です。
- 取得場所:法務局
- 登記申請書
- 登記を申請するための書類で、相続登記の場合は遺産分割協議書の内容に基づいて記入します。
- 取得場所:法務局で提供される申請書フォームを使用し、相続人が記入します。
これらの書類を揃えて法務局に提出することで、不動産の名義変更(相続登記)の手続きを開始することができます。
法務局では、提出された書類を基に登記の手続きを進め、正式に不動産の名義を変更することができます。
相続登記に関する手続きは公的な書類となるため、全ての書類を正確に準備して、手続きを円滑に進めることが重要です。
法務局で登記申請
遺産分割協議を終えて必要な書類が揃ったら、名義変更する不動産の所在地がある法務局へ申請します。 法務局での登記申請には以下の2つの準備が必要です。
(1)登記申請書の準備
法務局への申請時には「登記申請書」が必要です。 登記申請書のフォーマットは法務局の公式ウェブサイトからダウンロード可能です。 相続登記の条件に応じて、正しい申請書を使用するようにしましょう。
(2)登録免許税の納付
登記申請と同時に「登録免許税」の納付が必要です。
登録免許税は、不動産の固定資産評価額の0.4%として計算されます。
例えば、不動産の固定資産評価額が3,000万円の場合、登録免許税は3,000万円 × 0.4% = 12万円となります。
固定資産評価額は「固定資産税の納税通知書」に記載されているか、市区町村の役所で固定資産評価証明書を取得することで確認できます。
登録免許税は、以下の方法で納付します
(a) 現金納付の場合
金融機関で登録免許税(国税)納付用の納付書に必要事項を記入し、窓口で登録免許税を支払います。 支払った際には領収書を取得し、法務局での手続き時に提出します。
(b) 収入印紙納付の場合
収入印紙は法務局の印紙売り場や金融機関で購入可能です。
登録免許税の納付には、適切な額の収入印紙を準備して使用します。
以上が法務局での登記申請に必要な準備と納付に関する詳細です。
登記手続きを円滑に進めるためには、事前に必要な書類や手続きについて正確に把握しておくことが重要です。
相続登記は司法書士に相談するのがおすすめ
司法書士は登記の専門家
相続登記を業務として取り扱えるのは、弁護士と司法書士のみです。
ただし、弁護士が登記業務を行っているケースは多くはありません。
ですので、通常は司法書士に相談するのが良いでしょう。
司法書士は登記や法務に特化した専門家です。
相続登記に関する手続きを正確に進めてくれます。
ただし、司法書士は特定の相続人の代理人として他の相続人と交渉したり、遺産分割調停の代理人になることはできません。
もし相続人間で紛争が生じていたり、手続きに応じない相続人がいる場合は、最初から弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は法的な紛争解決や代理人業務を行うことができます。
なお、市区町村や司法書士会では、無料相談会を定期的に開催していることがあります。
そのような機会を活用すると良いでしょう。
相続登記に必要な書類が揃っており、申請書を作成する段階であれば、法務局の窓口での登記手続き案内を利用することも可能です。
ただし、この案内は一般的な登記手続きに関する情報提供に過ぎず、具体的な個別事案に対するアドバイスは受けられないことに留意してください。
まとめ
相続登記は、亡くなった方が所有していた不動産の名義を相続人に変更する手続きです。
2024年4月28日までに相続登記が義務化されるため、期限内の手続きが必要となります。
相続登記を行うには、登記簿の確認、戸籍謄本等の収集、遺産分割協議書の作成、登記申請書の準備、登録免許税の納付といった一連の手順を踏む必要があります。
手続きが複雑で専門的な知識が求められるため、相続登記は司法書士に相談するのがおすすめです。
司法書士は登記の専門家であり、スムーズな手続きをサポートしてくれます。
相続登記は、放置することで様々なリスクが生じます。
早めに着手し、専門家の助言を得ながら、円滑に手続きを進めることが重要です。