個人再生は借金を減らして経済的に再出発するための手続きですが、債権者の権利保護も重要な課題です。
そこで登場するのが「清算価値基準」という考え方です。
債務者の財産を清算した場合の債権者への分配額を下回らない返済額を設定することで、債権者と債務者の利益のバランスを保つための基準となります。
この記事では、清算価値基準の意味や重要性、算出方法について詳しく解説します。
最低弁済額を決める基準とは?
個人再生においては、最低弁済額を定めます。
つまり、返済するべき金額のことを最低弁済額と言うのです。
最低弁済額を決める基準は、以下の3つです。
- 総借金額をベースに計算する「最低弁済額基準」
- 保有している財産額をベースにする「清算価値保障基準」
- 収入をベースにする「可処分所得基準」(給与所得者等再生のみ)
この3つの基準の中で、最も金額が大きいものを利用して決定します。
【最低弁済額基準】
確定した借金の額 | 最低弁済額 |
100万円以下 | 減額されない |
100万~500万円 | 100万円 |
500万~1500万円 | 5分の1 |
1500万~3000万円 | 300万円 |
3000万円~5000万円 | 10分の1 |
清算価値基準の意味と重要性
清算価値基準とは、個人再生手続きで債務者が債権者に返済すべき金額を算出するための基準です。
債務者が破産した場合に債権者に配分される金額を下回らない返済額を設定する必要があります。
つまり、債務者の破産時に債権者に分配される金額を基に、個人再生での返済額が決定されます。
清算価値保障原則とは
清算価値保障原則では、債務者が破産した場合の配当額を下回らない金額の弁済が求められるという原則です。
破産では財産の清算が必要ですが、個人再生ではその必要がありません。
そのため、個人再生では債権者への返済額が破産時より少なくなる可能性があります。
これは債権者にとって不利益であり不公平です。
そこで、個人再生の手続中は、財産を処分しなくていい代わりに、破産時と同等の金額の支払いが求められます。
清算価値保障原則は、債権者が破産時に受け取れる金額の返済を確保するためのルールなのです。
清算価値基準の例
例えば、債務者の借金が500万円で、最低弁済額基準で100万円まで減額されたとします。
仮に債務者が300万円の価値がある車を所有していた場合、破産ではその車が売却され、債権者に300万円が分配されます。
しかし、個人再生手続きではこの清算手続きがないため、最低弁済額まで減額されると債権者の回収額が100万円になってしまいます。
清算価値基準を300万円とすることで、このような不公平を防いでいるのです。
この仕組みにより、債権者も個人再生手続きを受け入れやすくなります。
清算価値の算出方法と具体例
清算価値は、再生手続き開始時を基準に算定されます。
債務者の財産を清算したら得られるであろう金額から諸経費を差し引いて算出されます。
例えば、現金100万円を持っていて、税金の滞納が20万あったとします。
この場合、現金80万円は清算価値として算入されるということです。
なお、計算された資産の総額が借金の総額よりも多いと、個人再生はできません。
対象となる財産
個人再生で清算価値基準の算定対象となる財産は、
- 現金や預貯金
- 貸付金
- 積立金
- 退職金見込額
- 保険の解約返戻金
- 有価証券
- 自動車等の高価な品物
- 不動産
などです。
以下では、代表的な算定対象を一つずつ解説していきます。
現金や預貯金
まず、現金や預貯金です。
これらはお金そのものであり、即座に換金可能なため、清算価値に算入されます。
ただし、全額持っていかれてしまうと生活に影響が出てしまいます。
そこで、裁判所が手元に残していいと判断した金額は算入されません。
例えば、預貯金が100万円あり、裁判所が「20万円は持っていていい」と判断したら、清算価値に80万円分は算入されることとなります。
貸付金
貸付金とは、債務者が他人に貸しているお金のことです。
これらも、返済が期待できる金額が清算価値に算入されます。
積立金
積立金も、清算価値に算入される資産に当たります。
例えば、社内預金や財形貯蓄などが含まれ、これも換金可能な資産です。
退職金
退職金見込額は、将来的に受け取る予定の退職金のことです。
企業の退職金規定に基づいて見積もります。
例えば、5年後に300万円の退職金を受け取る予定がある場合、その一部が現在価値として算定されます。
保険等の解約返戻金
保険の解約返戻金は、保険契約を解約した際に受け取る金額のことです。
例えば、生命保険の解約返戻金が50万円ある場合、これも清算価値に含まれます。
有価証券
有価証券は、株式や債券などの金融資産で、市場価格に基づいて評価されます。
例えば、保有する株式の時価総額が200万円の場合、この金額が清算価値に算入されます。
自動車やバイク等の高価な品物
自動車やバイクも清算価値の対象です。
例えば、車の市場価値が100万円の場合、その金額が清算価値に含まれます。
高価な品物とは、20万円以上の物品を指し、これには貴金属や美術品が含まれます。
例えば、高価な時計が50万円の価値を持つ場合、その金額が算定対象となります。
不動産
不動産は持ち家や土地のことで、市場価格から売却費用や税金を差し引いた金額が清算価値として算定されます。
例えば、持ち家の市場価値が1000万円で、売却費用が100万円かかる場合、清算価値は900万円です。
このように、個人再生における清算価値の算定対象となる財産は多岐にわたり、それぞれが具体的な評価額に基づいて清算価値を構成します。
まとめ
清算価値基準は、個人再生手続きにおいて債務者が債権者に返済すべき金額を算出するための重要な基準です。
債務者が破産した場合に債権者に配分される金額を下回らないよう、返済額を設定することが求められます。
これにより、債権者の権利が保護され、債務者も経済的再出発が可能となります。
清算価値は、債務者の財産を売却した場合の金額から諸経費を差し引いて算出されます。
対象となる財産は多岐にわたり、正確な算出には専門家のアドバイスが必要です。
再生計画の弁済総額が清算価値を上回ることが、再生計画認可の条件となります。
清算価値基準は、個人再生手続きにおける債権者と債務者の利益のバランスを保つための重要な役割を果たしています。
債務者の再出発を支援しつつ、債権者の権利も保護する個人再生制度の根幹をなす基準だと言えるでしょう。